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今月のコラム 望月爾(2011年10月)  グローバル・タックスと国際連帯税

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望月  爾(専門分野:税法)

はじめに

 近年、グローバル化が急速に進展するなか、国際的な貧困や格差の拡大、金融経済の不安定化、地球規模での感染症の流行や温暖化の進展など、グローバル化の負の影響が深刻化しています。最近でいえば、リーマンショック後のアメリカの金融不安が世界経済を混乱に陥れ、各国の経済や世界中の人々の日常生活にも深刻な影響が生じています。こうしたグローバル化の負の影響に対し課税を通じて抑制し、税収を貧困や格差の解消、感染症の治療などの国際的な公共財の供給や福祉の推進の財源として再分配する「グローバル・タックス」の導入をめぐる議論が活発化してきています。とくに、最近では国際連帯税として、国連やEU、IMFなど国際的な枠組みでの航空券連帯税や通貨取引税、炭素税などについて実現に向けての具体的な議論や取り組みが進みつつあります。

 

 日本においても、2008年2月には超党派の議員による国際連帯税創設を求める議員連盟が設立され、洞爺湖サミット後の同年9月日本政府は、国際連帯税に関するリーディンググループに正式参加することを決定しました。2009年4月には国際連帯税を推進する市民の会(アシスト)や国際連帯税推進協議会(寺島委員会)など民間レベルでの活動や働きかけも進展し、政権交代後2009年12月の「平成22年度税制改正大綱」には国際連帯税導入の方針が盛り込まれました。さらに、2010年には政府税調の専門家委員会の国際課税小委員会において、国際連帯税導入に向けての議論がはじまっています。

1.グローバル・タックスとは

 グローバル・タックス(Global Tax)とは、グローバルなモノや活動に対して課税を行い、グローバル化の負の影響を抑制しつつ、財源として国際的な公共財の供給や福祉の推進のために支出することにより、貧困や格差の解消、感染症予防などの地球規模の問題の解決を目的に、税収をグローバルに再分配する税のシステムをいいます。具体的なグローバル・タックスの構想としては、通貨取引税や航空券連帯税のほか、国際炭素税、天然資源税、国際輸送燃料税、多国籍企業税、武器取引税、ビット・タックス(ネット上の情報のやりとりへの課税)など、さまざまな税が提案されています。

 グローバル・タックスの起源は古く、19世紀の国際法学者ジェームズ・ロリマーが自らの著作で国際的な財源としての課税の可能性について言及したことに遡ります。20世紀に入っても、マーシャルやケインズ、ミードなど著名な経済学者たちも同様な国際的な課税のアイデアをもっていました。グローバル・タックスの具体化の契機となったのが、1972年にアメリカの経済学者ジェームズ・トービン博士が初めて国際的な通貨取引に課税するいわゆる「トービン税」を提案したことです。トービンは、通貨投機による金融の不安定化を抑制し、各国経済に自律性を取り戻すことを目的として、世界的規模ですべての外国為替取引に売り手と買い手双方に1%(その後0.1%)の税率で課税することを提案しました。しかし、このトービンの提案には、国際経済への影響への懸念や技術的な実現可能性の問題があり、当時主流となりつつあった新自由主義的な経済政策の流れに反することもあって、その後約20年以上ほとんど顧みられることはありませんでした。

 ところが、1996年ドイツのパウル・シュパーン教授が、IMFの調査委託を受けてトービン税を改良した国際的通貨取引に対する「2層課税」を考案しました。2層課税とは、第1層は、為替取引に変動幅を設定しその範囲内の通常の為替取引に対しては低い税率をかけ、第2層は、設定した変動幅を越える取引に対しては高い税率をかけて投機を抑制するというものです。この2層課税がアジアの通貨危機の時期とも重なって、90年代後半トービン税への関心を高め、フランスのATTACやドイツのWEEDなどヨーロッパのNGOが中心になって、導入に向けて活発な運動を展開していました。

 このようなNGOの活発な活動は、各国の議会を動かして、トービン税の導入の決議や法案化が進んでいきました。まず、1999年カナダ議会は国際社会に協力して金融取引に課税すべきとの提案を賛成多数で決議しました。翌2000年にはイギリス下院が政府にトービン税の導入を検討するように要請、2001年フランスの国民議会がEU加盟各国のすべてが賛成することを条件にトービン税の導入を決議し、2004年にはベルギー議会が、13条からなる具体的な法案として「トービン・シュパーン法」を可決しました。EUとしても、2000年にEU議会でトービン税の導入の審議案が一度僅差で否決されましたが、蔵相会議などでは、通貨取引税の導入が引き続き討議されました。

2.国際連帯税構想

 2000年9月、国連ミレニアム・サミットが開催され、2015年までに世界の貧困を半減するというMDGs(ミレニアム開発目標)が採択され、国際社会における重要な公約となりました。これを受けてその財源確保のための新たな資金調達方法が議論されました。2002年3月には、メキシコのモンテレイで国連の開発資金に関する国際会議が開催され、国際的にもトービン税や国際炭素税などが再び注目を集めはじめました。それ以降、グローバル・タックスの導入に向けた議論や取組みは、新たな開発資金の調達を目的とする国際連帯税構想として進展していくことになりました。

 国際連帯税(International Solidarity Levy)とは、2005年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)において、当時のフランスのシラク大統領が打ち出した国際的な課税の構想のことです。具体的には、租税回避目的の資金移動への課税や金融取引税、航空券連帯税、航空・海上輸送燃料税などの導入、なかでも、すでに一部の国で導入されている航空券連帯税と長年議論されてきた通貨取引税の重要度が高いといえます。

 (1)航空券連帯税

 2006年7月フランスは、途上国に広がるHIV/エイズ、マラリア、結核など感染症の治療薬の提供の財源として国内線・国際線を問わず、航空券へ一定の税額を課す航空券連帯税を導入しました。チリ、ブラジル、韓国など現在13カ国が同様な航空券連帯税を実施しています。フランスの航空券連帯税は、片道ベース(一航空券)ごとに、トランジットの場合を除き、国内線・EU域内への航空券は、エコノミー・クラス:1ユーロ、ビジネス・クラス、ファースト・クラス:4ユーロが課税され、国際線・EU域外への航空券は、エコノミー・クラス:10ユーロ、ビジネス・クラス、ファースト・クラス:40ユーロが課税されています。民間航空総局が徴収し、開発庁に財源として移管され、年間約1.7億ユーロの税収ほとんどを国際的な感染症対策のための医薬品購入・提供機関であるUNITAIDに拠出しています。

 UNITAIDは、2006年9月の国連総会において、フランス、イギリス、ブラジル、チリ、ノルウェーの5カ国により創設された国際的な医薬品支援のための機関であり、その目的は、HIV/エイズ、マラリア、結核などの感染症の治療薬を大量に購入し、より安価なジェネリック医薬品を購入することで低価格化を促進し、途上国の感染者に、より安く大量な医薬品を供給することにあります。加盟国は29カ国、被援助国は93カ国に及んでいます(2010年現在)。運営パートナーとして、WHOやユニセフ、クリントン財団なども参加しています。具体的な医薬品支援として約2100万人以上の人々に対しHIV/エイズ、マラリア、結核治療薬の提供などを行ってきました。アジアからは韓国が加盟し、航空券連帯税よりの拠出を行っています。

 日本でも2010年に政府税調の専門家委員会において、航空券連帯税の導入が議論されました。試算によると、エコノミー・クラス:500円、ビジネス・クラス、ファースト・クラス:5000円として、年間約171億円~278億円が見込まれます。なお、航空券連帯税は、国際競争が激化している航空業界にとって、不利な課税という見方がありますが、導入国を離陸するすべての航空会社に課税されるため、特定の航空会社に不利に働くことはありません。

(2)通貨取引税(「トービン税」)

 最近、国際連帯税としてEU諸国を中心に、導入にむけた議論が進みつつあるのが、従来「トービン税」と呼ばれてきた通貨取引税です。とくにリーマンショックに伴う金融危機後、EUにおいてイギリスやドイツを中心に金融機関を対象にした金融活動税や国際的な金融取引に課税する金融取引税などが提案され、通貨取引税も有力な課税方法の一つとして検討されています。

 通貨取引税については、1972年にトービンが初めて提案して以来、技術的実現可能性への疑問と課税逃れや代替的金融取引への移行の問題が批判として強調されてきました。しかし、近年国際的通貨取引の決済システムの電子化、集中化が進み、為替取引の契約地を特定して課税を行うことは可能になり、外国為替取引の決済システムを利用した税の徴収も可能となっています。たとえば、SWIFTによれば為替取引の特定と課税に必要な情報の捕捉は可能であり、国際的通貨取引のクリアリングハウス機関のCLS(多通貨同時決済銀行)によって、デリバティブ取引などの代替的金融取引の捕捉も可能となっています。このようなシステムを利用し外国為替取引等の金融取引に課税することにより、タックス・ヘイブンや金融オフショアを利用した租税回避や資本逃避、マネーローダリングも防止でき、徴税コストも低く抑えることができるメリットもあります。

 現在、通貨取引税のなかで国際連帯税として導入に向けての議論が一番進んでいるのが、通貨取引開発税とグローバル通貨取引税です。まず、通貨取引開発税は、国際金融の専門家であるソニー・カプール氏らが提案した通貨取引税の一類型です。年間500兆ドルといわれる外国為替取引に0.005%という超低率の税率で課税することによって、市場のメカニズムを損なうことなく為替市場の安定化を図り、得られた税収を革新的な開発資金として途上国の開発支援に利用するというものです。通貨取引開発税は、自国通貨に課税する一国単独の課税を基本とし、自国で取引されるすべての通貨に課税するのではなく、国際的な支払・決済システムを通じて世界中で取引されている自国通貨に課税する仕組みをとります。それゆえ、国際連帯税に関する最近の議論では「特定通貨取引税」と呼ばれています。

 グローバル通貨取引税は、CLS(多通貨同時決済銀行)が主要通貨市場において通貨決済ごとに0.005%手数料に上乗せして徴収するという課税方法をとります。CLSは、法的にはアメリカの民間銀行ですが、現在17通貨、国際的な通貨取引の実に75%はCLSを通じて行われています。したがって、これを利用して課税を行えば、グローバルな枠組みで多通貨に対して集中的に課税を行うことができます。徴収した税収は参加各国を通すことなく直接「グローバル連帯基金」に積み立てられて、地球公共財調達のための資金として基準を設けて関連の機関やプログラムに分配されることになっています。税収としては250億ドルから344億ドルが見込まれています。

おわりに

 グローバル・タックス構想において、もっとも重要な課題が、国家の課税管轄権を越えてどのように国際的な課税の枠組みを作っていくかです。民主的な国家における課税の正当性は、それぞれの国の議会での立法手続に基づくことにより裏付けられています。グローバル・タックスの場合、その課税を正当化する議会は存在せず、あくまで各国間の国際的な合意の形成が重要となります。その意味で国際連帯税に関するリーディンググループなどにおいて、国際連帯税の導入にどこまで国際的なコンセンサスが広がり加盟国や導入国を増やしていけるかが重要になってきます。また、グローバル・タックス構想を推進するため、アメリカを中心に進められてきた新自由主義的なグローバル化の見直しも必要です。リーマンショック後の金融危機と世界的な不況は、経済面を中心に新自由主義的なグローバル化の限界と問題点を明らかにしました。このことは、グローバル化の負の影響を抑制する手段としてのグローバル・タックスの重要性を再認識させることにつながるものと思われます。

 アメリカは、通貨取引税をはじめグローバル・タックスに対して一貫して反対の姿勢をとっていますが、ドイツ、フランスを中心にEUは、金融への国際的な規制手段として、金融取引税などの金融取引や銀行等の金融機関への特別な課税に前向きです。金融市場の混乱や金融取引のヨーロッパ離れなどの懸念から慎重な意見が多いものの、現在も、欧州委員会において株式と債券、デリバティブ(金融派生商品)の取引に課税する金融取引税が検討されています。また、今後、そうした国際的な動きに加え、日本が国際連帯税の実現に向けて、どのような国際的な役割を果たしていくかも重要になってくるものと思われます。

 

(参考文献)

上村雄彦『グローバル・タックスの可能性』(ミネルヴァ書房、2009年)、ブリュノ・ジュダン(和仁道郎訳・金子文夫解説)『トービン税入門』(社会評論社、2006年)、拙稿「グローバル化と税制-グローバル・タックス構想を中心に」中島茂樹・中谷義和編『グローバル化と国家の変容』155頁(お茶の水書房、2009年)望月爾「グローバル・タックスの導入に向けて──国際連帯税を中心に」法と民主主義452号30頁(2010年)ほか

 

(参考ウェブサイト)

  グローバル・タックス研究会

http://blog.goo.ne.jp/global-tax

  国際連帯税推進する市民の会

http://www.acist.jp/index.php?limitstart=26

  政府税制調査会専門化委員会国際課税小委員会

http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/senkoku/index.html

※ 本研究は、科研費基盤研究(C)「グローバル・タックス研究の国際的動向」の研究成果の一部です。

 

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