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今月のコラム 湊二郎(2012年2月)  建築紛争と義務付け訴訟

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湊二郎(専門分野:行政法)

 私は,建築や都市計画に関係する行政訴訟に特に関心を持っています。例えば,行政が建築主に対して高層建築物の建築を認める建築確認処分を出したところ,その建物の建築によって日照阻害等の不利益を受ける周辺住民が,行政を相手取って,建築確認処分の取消訴訟を提起するという場合が考えられます。他方で,既に完成した建物が高さ制限規制に違反している場合に,付近住民が,行政を被告として,その建物の所有者に対して違反を是正する措置をとることを命ずることを求める義務付け訴訟を提起することがあるかもしれません。後者の義務付け訴訟(いわゆる非申請型義務付け訴訟)は,2004年の行政事件訴訟法の改正で法定されたものですが,取消訴訟とは異なって,「重大な損害を生ずるおそれ」がある場合に限って提起することができるものとされています。その結果,訴え自体が不適法として却下されることが少なくありません(ただし,廃棄物処理法違反事件では,2011年に福岡高裁が措置命令の義務付け判決を出しています)。

 一方でドイツに目を向けると,かの地においても,近隣住民が,建築許可の取消しや,工事中止命令・除却命令等の義務付けを求めて,行政裁判所に出訴することがあります。立命館法学338号(2011年第4号)に掲載された拙稿「建築紛争における仮命令」は,後者の義務付け請求に関するものです。近隣住民が工事中止命令等の義務付けを求める場合の例としては,事前に建築許可を受ける必要のある事業案(Vorhaben)が,許可を得ずに実施されている場合や(このような事例も意外にあります),建築許可を受ける必要のない事業案が,建築規制に違反して実施されている場合が挙げられます。ドイツでは,1990年代以降の規制緩和で,建築許可を要しない事業案の範囲が拡大されました。詳細は州によって異なりますが,市町村が策定する狭域かつ詳細な都市計画であるBプラン(Bebauungsplan)の区域内で,その内容に矛盾しない住宅を建築する場合には,建築許可を受けることを要しないものとされるのが通例です。もっともこの規制緩和は,建築許可手続のみに関わるもので(いわば手続的規制緩和),実体的な建築規制を緩和するものではありません。したがって,Bプランの区域内の住宅建築であっても,それが実体的な建築規制に違反するのであれば,工事中止命令等の対象になります。そのような事業案に関して,近隣住民が工事中止命令の義務付け請求を行った場合,行政裁判所は,近隣住民の受ける被害が取るに足りないものであるときを除いて,請求を認容する傾向があります。その理由としては,そもそも建築許可を要しない事業案の場合は,近隣住民は建築許可の取消しを訴求する機会がないので,義務付けの要件を緩和する必要があるという点が指摘されています。この理由づけは,建築許可を要する事業案が無許可で実施される場合にも同様に当てはまるのではないかとも思われますが,ドイツの行政裁判所が比較的容易に義務付け請求を認容する傾向があることは注目されます。

 日本においては,建築基準法や都市計画法の領域において,ドイツのような手続的規制緩和が行われたという事情はありませんし,上記のように非申請型義務付け訴訟には「重大な損害」の要件が定められていますので,同様に考えることはできません。ただ,建築規制に違反する住宅等の建築が問題になる事例において,義務付け訴訟が活用されている国もあるのだということは,知っておいても良いのではないでしょうか。

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