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今月のコラム 岸本雄次郎(2012年11月)  「米粒の混和」と「羊の群れの識別不能」

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岸本雄次郎(専門分野:民法財産法・信託法)

 信託法17条は、信託財産と固有財産(もしくは他の信託財産。以下、「固有財産等」といいます)との添付(付合もしくは混和またはこれらの財産を材料とする加工)があった場合には、信託財産および固有財産等は各別の所有者に属するものとみなして、民法の添付規定(242条~248条)を適用するとしています。すなわち、受託者の固有財産等たる動産と信託財産たる動産とが付合もしくは混和し、前者が主たる動産であった場合は、固有財産等を当該合成物の単独所有者とみなす(もっとも、主従の区別をすることができないときは、固有財産等と信託財産が、その添付の時における価格の割合に応じてその合成物を共有するものとみなす)としているわけです。

 他方、同18条は、前条に規定する場合(=添付の場合)を除いて信託財産と固有財産等とを識別することができなくなった場合は、各財産の共有持分が信託財産と固有財産等とに属するものとみなし、その共有持分の割合は、その識別することができなくなった当時における各財産の価格の割合に応ずるとしています。添付の場合と異なり、単独所有者を決しようとはしないということです。

 17条で規律される混和と18条が想定する事態との差異については、「信託法改正要綱試案」の「補足説明」(以下、「補足説明」といいます)が、次のように説明しています。すなわち、前者が「複数の物が混淆して事実上これを弁別することができなくなった状態(典型的には、液体や穀物が混合し又は融和して事実上弁別することができなくなること)」であるのに対し、後者は「複数の物がそれぞれ物理的には弁別が可能であるという状態は維持されているものの、その帰属関係が不明瞭な状態になった場合」であり、その例として「固有財産に属する羊と信託財産に属する羊とを柵で区分けして飼育していたところ、柵が壊れて、両者に帰属する羊がどれであったかを識別することができない状態になった場合」が挙げられるとしています。前者(混和)の場合、主従の区別ができるときは単独所有者を決しようとしているのに対し、後者の場合(以下、「識別不能状態」といいます)は、「(そのような)状態にある各財産は物理的な弁別が可能であることにかんがみて、主従の区別の可否に関係なく、共有を生じさせるとした」としています。

 思いますに、民法の添付規定は、それぞれ異なる所有権者に属する複数の物が契約等を介さないで単独の物に転化した場合において、その復旧請求を禁じ、一物一権主義に基づいてその単一物(合成物)の所有権の帰属を決しようとするものでありましょう。つまり、法的関係にない者との間での所有権帰属の調整に主眼を置いていると思料せられます。もともとは法的関係がないのですから、共有関係という法律関係が持続する状態を可能なかぎり回避し、主従によって一本化した所有権の帰属を決しようとしていると考えられるのです。翻って、信託財産・固有財産等間におきましては、合成物等にかかる当事者は1人しか存しません(受託者のみ)。信託財産の実質的な所有者である受益者が存すると考えても、受託者と受益者は固より法律関係にありますから、主従関係でもって所有権の一本化を図ることによる共有関係の回避が迫られるわけではありますまい(そもそも動産の付合・混和において主従の区別がつかないときは、民法も共有関係を認めています)。

 要するに、信託財産と固有財産等とが識別不能状態にある場合、共有持分が信託財産と固有財産等とに属するとされるのは当然であって、現行信託法(2007年施行)が18条の規定を創設したことによって始めて認められるに至ったわけではなく(「同条なかりせば共有持分を観念することはできない」というわけではない)、民法添付規定の信託への準用は、旧状態への復旧禁止の部分だけで十分であったと思料しています。けだし、信託財産と固有財産等との混和(たとえば、信託財産たるコシヒカリと固有財産等たるササニシキとが混和して、ブレンド米になってしまった状態)と羊の識別不能状態とで、前者が(一粒一粒の弁別は可能かもしれないものの)もとの単一物に復旧することが社会経済上不可能な合成物が生成されたのに対し、後者については合成物が生成されたわけではないからとて、識別ができない状態に陥ったということには変わりがなく、法的効果に差異を設ける実益が存しないと思料しております。

 信託法18条は、上述のとおり、「共有持分の割合は、その識別することができなくなった当時における各財産の価格の割合に応ずる」としていますが、法制審議会信託法部会第22回会議議事録が「2回識別不能になっ」た場合には「どうなのか」ということを検討しています。纏めると、以下のとおりです。

 固有財産たる羊と信託財産たる羊が7対3であったところ、識別不能状態になった。その後、固有財産たる羊がまた2匹それに加わり、今はもう全部が識別不能になっている。ただし、その2匹は、他の羊と外観では弁別することはできないけれども高級な羊(値段が他の羊の2倍)であった。さぁ、この場合、「識別することができなくなった当時における各財産の価格の割合」とはいかなる割合か。

 これに対しては、さすがに1人の委員が「みんな同じように見えますという前提であるにもかかわらず値段が高いもの2匹と言われても、ちょっと」と、良識を示す発言をしています。外観では区別できないもののDNA鑑定の結果等で判別していた特殊な羊が、他の羊と識別不能状態になった場合は、再度同鑑定を行うしかなく、それが米粒の弁別のように不経済というようなことがあるのかもしれません。しかし、そのように弁別された羊などは固よりイヤーマークや烙印がなされているのが通常でありましょう。

 なお、動物学者の弁によりますと、そもそも羊の群れは、他の群れと交わることはあまりないとのことです。信託財産たる羊の群れと固有財産たる群れは、縦令柵が壊れても、識別不能状態となることは想定し難いらしいのです。説明のためとはいえ、補足説明は、その(羊を用いた)例示が妥当ではなかったようです。

 さて、信託法18条は、「識別することができなくなった場合」に、共有を観念するとしています。そこで、当初から識別不能であった場合はどうなのかという問題が提起されています。たとえば、固有財産取引と信託財産取引とで同種の商品を仕入れ、同じ倉庫に納入されたその商品群がいずれに属するのかというものです。予め各財産の保管場所を明示的に区分けし、各別に別々の倉庫で保管しないと(外形上の区分がなされておらず)、当初から識別不能状態になります。その商品群に関しては、「識別することができなくなった」のではなく、「当初から識別できない状態」であるのだから、18条所定の「その共有持分の割合は、その識別することができなくなった当時における各財産の価格の割合に応ずる」という規定を適用することはできないのではないかというわけです。

 既述のとおり、識別不能の場合は、添付であろうと識別不能状態であろうと、信託法17・18条の規定にかかわらず共有を観念すればよいと私は理解しております。したがいまして、「識別することができなくなった場合」であろうと「当初から識別不能状態にある場合」であろうが、同様に共有を観念することができる(するべきである)と解しております。

 ところで、周知のとおり、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」の制定により、法人がする動産の譲渡につき登記によって対抗要件を備えることが可能となりました。譲渡にかかる動産を特定する方法として、同法にかかる平成10年8月28日法務省令39号(動産・債権譲渡登記規則)8条1項は、①動産の特質によって特定する方法(1号)、②動産の所在によって特定する方法(2号)の2種類を設け、当事者が事案に応じていずれかの方法を選択できるようにしています。②において、「特定のための必要な事項」として、「動産の種類」(同号イ)と「動産の保管場所の所在地」(同号ロ)が掲げられており、また、それ以外にも特定をより明確にするための有益事項を記録することができるとしています(同規則12条2項)。しかしながら、集合動産であっても一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができることの要件として最一小判昭和54年2月15日(民集33巻1号51頁)が示した「量的範囲」については、「特定のための必要な事項」として挙げていません。その理由として、②による場合、当該保管場所にある同種類の動産すべてが譲渡にかかる動産となることが制度上予定されており、必然的に譲渡にかかる動産の数量は全部となるので、数量は特定に必要な事項としていないことが挙げられています。すなわち、この場合には、「○個」「○トン」「全体の3分の1」等の数的な制限を有益事項として記録しても、上掲最高裁判例法理に鑑みて、記録事項としては無益的なものになると考えられるからであるとされています。さらには、このことを明確に知らせるために、登記事項証明書の欄外に「動産の所在によって特定する場合には、保管場所にある同種類の動産のすべて(略)が譲渡の対象であることを示しています」と付記されています。

 集合物の一部を譲渡担保に供することの可否については、上述のように当初から共有を観念すれば可能であると解すべきであり、畢竟、右登記事項証明書の欄外における上記付記は、根拠を持ち得ないと考えています。

 ライスもマトンも同等に扱いたいものです。

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