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今月のコラム 本山敦(2013年1月)  親権の比較研究

はじめに

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本山敦(専門分野:民法・家族法)

 京都・愛宕山中で母子4人行方不明―新年早々の報道である。後に、母子は自力で下山し、無事に保護された。

 筆者は、この報道に接した当初、「母子心中」と想像した。幸い、事実は違ったが、筆者と同様に受け止めた人々も多かったのではないか。

 親子心中で子を道連れにする親は、「私(たち)が先に死んで、子どもだけが後に残されたら、子どもがかわいそう」、「自分(たち)と一緒に死んだ方が、子どもも幸せなはず」と信じているのだろう。これは、親の子に対する愛情とも、親による子の生殺与奪とも見ることができる。そして、筆者は、愛情の名を借りた親本位・大人本位の発想は否定され、克服され、払拭されるべきだと考える。

 先の東日本大震災で、両親を失い、いわゆる「震災孤児」になった子は200名を超える[1]。親子心中を肯定するならば、これら孤児も両親と一緒に死んだ方がよかった、ということになる。しかし、不幸にして津波にさらわれ、建物の下敷きになり、死に瀕した親たちが、「子どもも一緒だったらよかったのに」と思ったか。反対だろう。「せめて子どもだけでも助かってほしい」と、親たちは薄れゆく意識の中で念じたに違いない。

 

1 親権に関する立法

 一昨年(2011年)から今年(2013年)にかけて、親子の効果、すなわち「親権」は重要な変化を迎えている。

 まず、2011年に親権を中心とする民法の規定(766条・820条など)が改正され、2012年4月に施行されている。

 つぎに、本年1月1日に施行された家事事件手続法では、家事事件における子の手続保障が抜本的に強化されている。

 さらに、昨年末の衆議院の解散で廃案となったハーグ子奪取条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)の締結および国内法の整備が、近々、実現するものと思われる。

 

2 親権に関する研究

 上述のように、親権に関する立法が進展している。とはいうものの、これら立法は親権の抱える多くの問題のごく一部に対処したに過ぎない。親権をめぐる課題は山積している。

 例えば、「親権」という用語が課題の一つである。親権では、「親」の「権」利だから、権利性がどうしても強調され、義務性が後退する。そこで、外国法で行われた変更に想を得て、「親責任」(英)とか、「親の配慮」(独)とかいうような用語に改めるべきとの主張がされている[2]

 用語以外にも、様々な事項が検討されなければならないが、検討に際して、外国法が示唆に富む。法律学における古典的手法の一つ「比較法研究」である。

 昨年から、床谷文雄教授(大阪大学)と筆者が共同責任者となり、諸外国の「親権」に関する比較法研究グループを立ち上げた。そして、同グループが既に公表し、また、今後、公表を予定している研究成果は以下の通りである。

 

(1)論文

 「親権:各国法の概要」

 戸籍時報691号(2012年12月)~702号(2013年9月)連載(予定)
 

  本山敦「連載にあたって」691号(2012年12月)

  山口亮子「アメリカの親権法」691号(2012年12月)

  小川富之「オーストラリアの親権法」692号(2013年1月)

  床谷文雄「ドイツの親権法」693号(2013年2月)掲載予定

  栗林佳代「フランスの親権法」694号(2013年3月)掲載予定

  マルセロ・デ・アウカンタラ「ブラジルの親権法」695号(2013年4月)掲載予定

  朱曄「中国の親権法」697号(2013年5月)掲載予定

  金亮完「韓国の親権法」698号(2013年6月)掲載予定

  梅澤彩「ニュージーランドの親権法」699号(2013年7月)掲載予定

  椎名規子「イタリアの親権法」700号(2013年8月)掲載予定

  千葉華月「スウェーデンの親権法」702号(2013年9月)掲載予定

 

(2)学会発表[3]

 「親権をめぐる比較法的課題―日本の課題と各国の対応―」

 比較法学会学術総会シンポジウム

 2013年6月2日(日)青山学院大学青山キャンパス
 

  報告1「問題提起」本山敦

  報告2「アメリカ」山口亮子(京都産業大学)

  報告3「オーストラリア」小川富之(近畿大学)

  報告4「ドイツ」床谷文雄

  報告5「フランス」栗林佳代(佐賀大学)

  報告6「ブラジル」マルセロ・デ・アウカンタラ(お茶の水女子大学)

  報告7「中国」朱曄(静岡大学)

  報告8「韓国」金亮完(山梨学院大学)

   なお、上記報告の要旨は、比較法学会の機関誌『比較法研究 75号』(2013年12月刊行予定)に掲載される。

 

(3)研究書刊行

 詳細は未定だが、上記(1)および(2)の成果を再構成し、研究書(単行本)として上梓したいと考えている。

 

むすびに

 法律学における古典的手法のもう一つは「法制史研究」である。しかし、残念なことに、親権については、日本法の歴史を掘り返しても、成果はほとんど期待できそうにない。

 135年前の1878年、英国人女性イザべラ・バードは日本人について、「私は、これほど自分の子どもをかわいがる人々を見たことがない。……父も母も、自分の子に誇りをもっている。」と書き記した[4]。ところが、20年後の1898年に施行された民法の「親権」は、親(父)の権利の体系で、子どもを尊重する制度ではまったくなかった。

 今年、筆者は、115年前に構築され、その結果、人々の親子観にも多大な影響を与えてきた民法の「親権」を創造的に破壊するため、研究に取り組むつもりである。



[1] 拙稿「親族法上の諸問題」「特集 災害時における民事法の機能とあり方」ジュリスト1434号4頁(2011年)。

[2] 二宮周平『家族法 第3版』207頁(新世社、2009年)。

[3] 詳細は、比較法学会HP http://www.asas.or.jp/jscl/index.html

[4] イザべラ・バード、高梨健吉訳『日本奥地紀行』131頁(平凡社ライブラリー、2000年)。

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