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今月のコラム 村田敏一(2013年2月)  会社法はどこへ行くのか

1.会社法改正の動向

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村田敏一(専門分野:商法)

 今回の会社法改正の動きに黄信号が灯っている。もっとも、黄信号という表現は、会社法を今改正すべきという立場からの表現であり、経済界としては、現行の会社法でそう大きな不便は感じていないのであるから、むしろ拙速な改正の動きに待ったがかかるのは歓迎すべきことかも知れない。現行の会社法(商法典から抜けて単行法となったもの、以下、「新会社法」)は平成17年に成立し(平成18年5月1日にその大部分が施行)、もうすぐ施行後7年を迎えようとしている。私は、現行会社法の立法過程においては、未だ大学人とはなっておらず、経団連経済法規委員会企画部会等の場で、産業界の要望をいかに通すかに腐心していた。当時は小泉政権の時代、もちろん満点とはいかないが、相当に経済界の要望が反映され、経済界としても満足感が漲っていたように思う。もともと、現行の新会社法は、経済界の要望等を踏まえた年中行事のような頻繁な部分改正により整合性が採れなくなっていた法典につき総見直しを行い規律間の整合性の回復と更なる規制緩和の集大成を企図したものであった。実は、白状すると、私は、新会社法の国会委員会審議に参考人として呼ばれそうになったことがある。もちろん、丁重にお断りしたが(議員に訳のわからない質問をされるのは嫌なものです)。平成17年の新会社法の審議当時は、ライブドアによるニッポン放送の敵対的買収等、いわゆる敵対的買収事案が世の中を騒がせていた。こうした中で、国会での審議も、買収防衛策の側面に必要以上にウェイトがかかったものとなった。その顛末は、全くの誤解に基づく、組織再編対価柔軟化や三角合併の部分の施行の1年延期に結びついてしまった。いったい、合併は当事会社(経営者)間の契約・合意を前提とするものであり、法的には敵対的な合併などは観念できないのである。新会社法に対しては、立法当初から学界を中心に強い不満が渦巻いた。そうした中での、政権交代、民主党はそのマニフェストの中に相当程度労働界の主張を反映した会社法改正構想を入れ込み、政権交代直後から法制審での改正論議がスタートした。そして、民主党政権末期の平成24年夏に、法制審は「会社法制の見直しに関する要綱案」を承認し、法務大臣に答申した。まことに、今回の会社法見直しの動きは、民主党政権の興亡と軌を一にしたものと言えよう。ところで、出来上がった要綱は、それほど急進的なものではなく、どちらかと言えば折衷的・微温的なものとなった。民主党政権という逆風下での、経団連をはじめとする経済界の必死の頑張りが奏功したものと評価されよう。もっとも、実務(企業・裁判所)に痛手を与えるとまでは言えないものの、あまり芳しくない影響を与える改正項目も、なお含まれていることも事実である。まさに不要・不急の法案として、参議院選を控え審議日程の逼迫している今通常国会への法案提出が断念されたことは賢明なものと評価される。もとより政権交代も法案提出が急がれない背景にあろう。読者には、一見は地味な会社法改正が、政治や産業界の意向に翻弄される姿を思い浮かべて頂ければ十分である。

 

2.支配株主の異動を伴う募集株式の発行等に関する規律の見直し

 今回の要綱で提案されている改正の目玉項目の一つとして、支配株主の異動を伴う募集株式の発行等に関する規律の見直しがある。実は、ある商法学者の古稀記念論文集が、今回の会社法改正(?)を統一テーマに定め、筆者が当該項目の評価を分担することとなった。そして、要綱の当該項目は、今回の審議の姿をある意味で象徴しているようにも思われる。現行会社法では、公開会社における新株の発行権限は基本的に取締役会に属し、機動的な資金調達の実現が図られている。定款の授権株式数や、「有利発行」規整、そして発行差止めに関する「主要目的ルール」(会社法210条2号)が、取締役会の発行権限を掣肘している。今回、要綱では、これらに加え、支配株主(2分の1超の議決権)が異動する発行につき、10分の1以上の既存株主が会社に反対通知をした場合には、株主総会での承認を要するとともに、さらにその例外として、発行会社の財産状況が著しく悪化しており緊急性が必要な場合には、取締役会権限での発行を可能とする規律が提案されている。10分の1という水準は、相当ハードルが高く、その意味では微温的な改正提案ともいえる。しかし、企業が株主共同の利益のために(企業業績向上のために)従来の支配株主の支配を脱し、より企業価値を高めるような企業提携を目指す場合に、当該ルールは、否定的に働いてしまう可能性が大きい。主要目的ルールに関する決定例(平成16年の、ベルシステム24事件)を、筆者は肯定的に評価するが、当該規律は、こうした決定例を破り、企業の発展にネガティブに作用する惧れがある。また、例外としての、緊急性の要件判断も困難であり、まさに企業の死活がかかる緊急な資金調達時に、徒に、発行差止の仮処分が申し立てられ、助かるはずの企業の息の根が止まるという懸念もあろう。やはり、拙速な法案提出を避けた自民党の判断は妥当なものと評価されよう。

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