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今月のコラム 村上弘(2014年9月) 自著紹介 『日本政治ガイドブック』
― 日本政治をめぐる基礎知識と、争点の解説・分析

 1.日本政治についての教養書・教科書

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『日本政治ガイドブック            
― 改革と民主主義を考える』
(法律文化社、2014年、2200円+税)
村上弘(行政学・地方自治論)

 

 このたび、市民やマスコミ記者のための教養書、大学の教養・専門レベルの教科書として、『日本政治ガイドブック』を出版しました。現代日本政治の入門的な解説に加えて、ホットな政治テーマ(民主主義、ポピュリズム、統治機構改革、道州制など)に関する学問的な分析を、分かりやすく紹介するものです。

 別途、『よくわかる行政学』(ミネルヴァ書房)を編集しており、博士論文『日本の地方自治と都市政策』と合わせて、自分が担当する研究教育分野については一応、本を揃えたことになり、ほっとしています。

 子どものとき、地図を眺め、街や野山を歩きまわり、また自分で小さな「辞書」を作るのが趣味でした。約1年かかった今回の執筆は、日本政治の基礎知識と重要テーマを探索して地図を描き、さまざまな事実・理論の情報を体系化して明快にまとめるという、しんどいが楽しい仕事でした。

 

 

 2.執筆の背景 ― 「考えさせない政治」

 本書の執筆は、現実政治に対する問題意識にも、もとづいています。

 つまり、たしかに政治はダイナミックに変転し、自民政権も民主政権も、それなりに政策成果をあげた面があるが、「考えさせない政治」「考えない政治」が横行しがちなのではないかという、危惧があります。

 政治主導のもとで、政策や制度改革についてメリット・デメリットの冷静な評価を怠ったり、「諸悪の元凶を壊し、すべてを解決する魔法」を訴えるポピュリズム政治家が進出したり、あるいはマスコミや有権者も、複雑な政治課題に対応しきれないといった問題です。さらに、そもそも新聞を読む人がとくに若い世代で減っていることが、政治のインフラを掘り崩しているのではないか。

 最近の事例から、4つだけあげておきましょう。

 ①2012年の総選挙では、自民党よりも右寄りの(小さな政府と権威主義を指向する)保守新党を、マスコミがフレッシュな「第三極」と呼んで美化し、その台頭を助けた。日本政治のこれまでの常識であり、外国や政治学でも用いる、政治の「左と右」「革新と保守」「リベラルと保守」といった座標軸を忘却させたために、有権者は政党を見定める基準を失うことになったのではないか。

 ②大阪「都」構想という言葉が、根拠法が成立し大阪府は大阪市を吸収しても「府」のままだと決まった後も、なぜか使われている。これは、虚偽表示だと言ってよい。むしろ、「大阪市廃止分割構想」と併記するのが、正確だ。また、推進者はもちろん、かなりの新聞も、大阪市を廃止するという事実に触れないために、そのことのデメリットについてもほとんど議論が進んでいない。

 ③要職にある国会議員が、太平洋戦争(第2次大戦)について、日本は資源封鎖され植民地にされそうだったのでやむなく英米に開戦したという趣旨の、歴史や政治史を知らない発言を行なった(2013年5月)。もっともその種の「教科書が書かない歴史」の本は、たくさん書店に積まれているが。

 ④改憲手続を踏まないままの集団的自衛権の導入や、憲法96条の改憲発議要件の緩和など、これまでの憲法論を顧みない「大胆な」方針が出され、かつそれが「国民のために必要だから」といった単純な説明で推進されることがある。

 

 3.内容の工夫 ― 基礎+発展の重層的な設計

 全体を3部に編成し、11の章を設けました。

第1部 日本政治の基礎知識

政府と国会

政党・選挙と政治参加

内閣と行政

地方自治

政治の理念と座標軸

第2部 民主主義とポピュリズム

民主主義―なぜ多数決だけではダメなのか

ポピュリズム―「考えさせない政治」のメカニズムと限界

政党システム―変化・継続と展望

第3部 制度「改革」をめぐる議論

首相公選・議員定数の削減・参議院廃止―統治機構の集約化

道州制―地方分権+「州央集権」

憲法96条改正―国の基本ルールを5割の賛成で変えてよいか

 教科書がふつう、制度やアクターを順に章として並べるのに対して、この本の1部と2、3部は、「基礎と発展」の関係です。1部で紹介した論点のいくつかに、2、3部が再び光を当て詳しく考察する構造になっています。読者は、基礎知識から読んでもよいし、関心のある発展的な論点に向かってもよいでしょう。

 なお、政治学の教科書としては、ポピュリズム(7章)、道州制(10章)、改憲(11章)などを本格的に扱った(近年、関心を持って研究してきたので)レアな本ではないかと、多少自負しています。先進国で珍しい日本の一党優位型政党システムについても、「自民党はやっぱり強い」「民主党の大失敗」などの常識を超えて、多面的に分析しています(8章)。

 

 4.書き方の工夫 ― 賛否両論を紹介したうえで分析し、考えてもらう

 政治学、あるいは広く社会科学の本や教科書のスタイルには、

①難解でもよい(まれにわざわざ難解にし「神秘化」する)か、分かりやすく書くか、

②学問的か、実体験・見聞・俗説にもとづくエッセイか、

③政治的に中立か、政治への評価・批判・提言を示すか、

といった選択肢があります。今風の政治学では、「かなり難解あるいは逆に面白さを追求」、「学問的」、「政治的論争から距離を置く」という人も多いですが、私は少し違う書き方をしました。

①内容のレベルを落とさない範囲で、文章は平易にする。

②今日の政治学の研究蓄積を、多く取り入れた。それはすなわち、データや事実に基づいて実証的に書くことでもあります。

③完全中立でも、自分の意見を押し付けるのでもなく、両論をバランスよく紹介してから、自分の意見を展開した。

 政治とは、立場の違いを前提とし、一方で「敵」を叩きプロパガンダを展開しうる世界ですが、それだけに私たちには冷静な議論が望まれます。この本では、読者に異なる意見を理解し、全体像を把握したうえで考えてもらうために、次のような工夫をしました。

⦿ 問題を多面的に考え、ディベイトにも活用できるように、賛否両論などをまとめた「議論の整理」表を、重要な論点について置いた。

⦿ いくつかの分析モデルを、グラフや表でビジュアルに示した(以上2点は、英米の教科書でよく見られる)。

⦿ 近現代のデモクラシーの発展と崩壊に関する略年表で、有名な場面をリアルに「体験」できる映画を紹介した。

 また、自分でさらに調べやすいように、次の工夫をしました。

⦿ 各章末で、基本書とともに、良質のまたは興味深い資料が得られるウェブサイトを紹介した。

⦿ 本文中カッコ内の参考文献を、ページ数まで記し、読者が効率よく情報源にアクセスできるように配慮した。

 

 5.表紙のデザイン

 京都・岡崎の近代美術館所蔵のモンドリアン『コンポジション』を使いたかったのですが、使用料もかかるので、代わりにこの名画のコンセプトを参考に自分でデザインを描き、出版社のデザイナーの方に仕上げていただきました。

 この表紙デザインは、実は、日本政治における左右の座標軸を示す本文の図表5-1に対応し、あるいは、論争を整理し、問題を多面的に考えてもらう執筆のスタイルを象徴しています。左下の赤色、右下の黒色は、20世紀における民主主義の崩壊の、有名な2つのパターンを象徴しています。

 

 6.宣伝にかえて

 この本が、今日の日本政治について基礎知識、複数の視点や理論、有用な文献を紹介する「ガイドブック」として、大学の教科書に、そして研究者、マスコミ記者、政治関連の仕事に携わる方に、広く利用していただければと願っています。

 定価を抑えるために、出版社の意見で元の原稿をかなり圧縮しましたが、かえって読みやすくなったようです。

 一部のページを、法律文化社のウェブサイトでごらんになれます。

   →http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03609-4

 全国の図書館の状況がわかるウェブサイト「カーリル」を覗くと、東京では30以上の公立図書館が所蔵してくださいました。首都圏、関西、福岡などの大都市圏もかなりの所蔵がありますが、地方に行くと激減するのは、それ自体が興味深いデータです。他の政治学教科書も大差ないようです。保守的な地域では、政治について自由に考えたり、そもそも興味を持つことが好まれないのでしょうか。

   →http://calil.jp/

 

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